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時折ブラリと寄るブログです。

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カテゴリ:二次小説( 3 )

 クロウ・リードがカード所有者となれなかった者に科する、一種の呪い。

 クロウカードに関わった全ての者から――『好き』の感情が消える災い。


 もしも次に、さくらや小狼、もしくはケルベロスやユエが選定した次期主候補が、カード達の所有者になれなかった場合、今度こそその災いが起きてしまうのでは?


 しかし、それについては心配無用である。

 なぜならば、クロウカードがさくらカードに変わった時、カードの魔力構造を始めとするあらゆるモノがさくらの魔力によって上書きされたからだ。


 そしてそれは、かつてクロウが仕掛けた呪いも例外ではない。

 よって次回からのカードの次期主候補選定時には、呪いは発動しなくなった。

 まぁそれでも、カードが大規模な暴走を起こした場合に備え、それらの事故の記憶や痕跡を消す呪いは仕掛けておいた方がいいだろう。


 もしまた、例えば『地(アーシー)』あたりが暴れた場合、冗談抜きで取り返しのつかない事になりかねないのだから。


 という訳で、さくらは中学2年生になるまでにケルベロスやユエ、そして小狼やエリオルから、カードを用いない上での魔力の制御法、及び術の発動方法をある程度教わり、マスターした彼女はようやく、

 カードの新たな『呪い(ペナルティ)』……というより『後始末』のための術の上書きに成功した。

 あとはさくらと小狼の子供、もしくはさくらと小狼が信頼しうるカード次期主候補が現れればいいだけである。


 クロウカードをさくらカードへと変えていたあの頃は、ただ『友枝町を怪異から救いたい』という、純粋な願いのままに、ガムシャラに、しかもクロウカードの魔力構造を基にカードを変えていたため、魔術師の基本にして根本的な、複雑な術や呪いの制御の方法を知らなかったさくらだが、彼女はカード関連の事件に関わったみんなの協力を得て、ようやく一人前の魔術師となったのだ。


「…………ほ……ええええぇぇぇぇ……やっ……と、終わったよぉ~~……」

 だが50枚以上あるカード内の術を、数日かけているとはいえ全て変えるとなると、いろいろと大変だった。

 少しは休まないと、明日の授業になんらかの影響が出ないとも限らない。

 まぁ、あの天才陰険魔術師クロウ・リードが新たに生み出した魔法を、さらに書き換えるだけでも凄いのだ。


 もういい加減3日くらいズル休みをしても罰は当たらないかもしれない……。

 いや、後が怖いのでやめておこう。


「ちょお、大丈夫かいなさくら?」

 さくらがさくらカードにさらなる上書きをするのを見守っていた、仮の姿のケルベロスが訊ねる。

「確かに、次期主候補の選定方法とかは決めといた方がええかもしれへんけど……そんな一気にやらなくてええやろ? クロウやって数週間もかけて……ええと……シューカツ、やったっけ? とにかくそれをやったんや。せやからさくらも、もおちょい自分の身体を大事にせんとアカンで?」


「……うん、そうだねケロちゃん」

 疲れてボーっとした頭でありながら、なんとか返事をするさくら。


 実際問題、彼女の母親の撫子はバイトやら家事やら子育てやら(もちろん藤隆も手伝ったが)で忙しくそうした苦労の末に亡くなったのだ。

 さくらまで限界以上に苦労する事はない。


「というか、さくらはまだ14歳やろ? 着替えの時にわいを部屋の外に出すような年頃や。まだまだセーシュンゆうヤツの真っ最中やろ? 今の内しか出来へん事をしたらええって」

「……分かった。今日はもうこのまま……おやすみなさ~~い……」

「って、さくら? 今まだ午後3時前やで……って、もう寝てもうたか……」

 机に突っ伏したまま、そのまま眠ってしまったさくら。


 ケルベロスはそれを見て、やれやれといった感じの顔をすると、

「わいとユエと……そしてカード達のこれからの事を考えての事やゆうのは解るが、頑張り過ぎも、考え物やなぁぁ~~」

 そう言いながら、風邪をひかないようさくらの背に毛布をかけてあげた。


     ※


 そしてさくらは、夢を視た。


「あなたが次元の魔女ですか?」

「そうとも呼ばれているわ」


 いわゆる『狐の嫁入り』と呼ばれる現象が起きる中。

 さくらではないさくらが、小狼ではない小狼によって抱えられ、とある1人の女性の前で、片膝立ちの状態でいる……。


 そんな状況を、遠目で見る夢を。


 見ているだけで、とても悲しくなった。


 別の小狼に抱えられている別のさくらが、なぜかピクリとも動かないから?


 そんな別のさくらの状態を直に感じ、無力感に苛まれている別の小狼を見ているから?


 否。そうではない。


 今のさくらに、できる事は何も無い。


 その事が……さくらにとって、1番悔しかった。


 なぜか動かない別のさくらも、絶対、意識があったら同じ事を思っただろう。

 なぜならば、彼女は別の世界の〝さくら〟なのだから。


「サクラを……サクラを、助けてください!!」

「……対価がいるわ」

 別の世界の小狼の悲痛な叫びと、女性の平坦な声が、雨中の庭に響く。

 するとさくらは、女性のその姿に、そして声の感じに……なぜか既視感を覚えた。

『……あれ? あの人、どこかで会ったような……あっ!』

 自分の記憶を思い返した末に、ようやくさくらは思い出す。

 かつて自分が見た姿、そして聞いた声の女性とは異なる女性ではある。

 だがそれは、高次元空間を超えた向こう側だからこそ在り得る可能性の範囲内。


 そう、あの女性は……。


『香港旅行で……クロウさんを捜していた、あの魔道士さん!?』


 自分の目の前にいるその女性、壱原侑子は……かつて香港で自分に襲い掛かってきた魔道士だった。

 例え姿と声に差異はあろうとも、夢越しでも感じる、その魔力だけは変わらない。

 ちなみに侑子も水を使った占いをするし、次元トンネルなんてモノも作れる。

 間違い無く、あの魔道士と同一存在であろう。


 と、そんなトンデモ事実に気付いた後も、侑子と別の世界の小狼……どころか侑子の正体を考えている間に出てきた、白い魔術師と黒い忍者の会話もいつの間にか進んでいた。

 侑子の手に乗っていた、白い鼠もしくは兎のような謎生物が宙へと浮かび……口を大きく開けた。

 すると次にその謎生物は、まるでカー〇ィの如き超吸引力で、小狼たちを口の中へと吸い込むと、そのまま己の足元に展開させた魔法陣の中へと……吸い込まれていった。


 時空を超える謎生物。まさかアレが……エリオルくんが言っていたモコナなる生物なのかな?


 一瞬、さくらはそんな事を思ったが、


『……そっか……あの人が、もう1人のクロウさんの……大切な、人なんだ……』

 それ以上に、夢越しではあるものの……ようやくエリオルの話の中に出てきた女性に会えて、さくらはなんだか嬉しく思った。


 しかし、夢はそう簡単に幸せな気持ちにし続けてはくれなかった。



 場面は、すぐに切り替わる。



 それは別の世界の自分達の辿って来た、運命。


 旅の始めは、確かに危険な事もあった。

 けれどその最中に、仲間と親睦を深めたり、旅の中で新たな発見ができたりして、とても楽しかった。

 しかしその幸福は……レコルト国に来た辺りから、


  壊 レ 始 メ タ


 小狼の、第一次覚醒。

 そして『東京』では、ついに封印は完全に解け――真の小狼は解き放たれた。

 小狼同士の死闘により消滅してしまった水の対価を得るために、別の世界の自分は初めて生き物の命を奪った。

 観光都市インフィニティではオリジナルの小狼への『戸惑い』に苛まれた別の世界の自分が、それでも自分の望む未来へと進むために、1度死ぬ事を決意した。

 セレス国では旅の仲間である白い魔術師の壮絶な過去を知り、そしてその過去を乗り越えようとして失敗した白い魔術師に代わり、黒い忍者は白い魔術師の恩師を殺害した。

 セレス国からの脱出の際、全員が生きて脱出するために、黒い忍者は自分の左腕を犠牲にした。

 日本国ではオリジナルの小狼と星史郎との戦いが繰り広げられ、最終的には夢の世界にて、オリジナル小狼と写身の小狼の決闘が勃発し、その果てに……別の世界の自分の魂は砕け散った。

 そして玖楼国では。オリジナル小狼の過去を知り、多くの戦いと様々な罠を乗り越え、その選択の果てに理を破壊してしまいながらも……………………………………………………………………………………


 とてもとても、悲しい物語だった。

 何度、途中で泣き叫びそうになっただろう。

 けれど、さくらはけっして目を逸らさなかった。


  なぜならば。


 何度つらい目に遭っても。

 別の世界の自分達は、決して前に進む事を諦めないから。


 そしてそんな自分達を……さくらは、信じているのだから。

 みんななら。前に進む事を諦めないみんなと一緒ならば……絶対、大丈夫だと。

 例えどんな事がこれから先に起こったとしても、みんなの力で、絆の力で、絶対に乗り越えられると……信じているのだから。



 そしてまた、夢は切り替わった。



     ※


 目の前に、大人になった、別の世界のさくらがいた。

 服装は……日本のモノではない。もしかすると、別の世界の小狼の故郷に住んでいるのかもしれない。

 そんな別の世界のさくらが、カードキャプターだったさくらを見て、呆然としている。

 まさか本当に会えるとは思っていなかったような、そんな顔をしていた。


 もしかすると、自分もそんな顔なのかもしれない。


そう思ったさくらだったが、エリオルが〝この瞬間〟に関する予言をした時からずっと考え、そして今、向かい合う別の世界の自分に言うと決めた事を……ついに告げた。


「これを。これは貴方の大切なものでしょう」


 差し出すのは、かつての自分をサポートしてくれたものであり、自分の成長の証でもある『星の杖』。

 かつて別の世界のクロウ・リードにより、サクラ姫のために創られた杖。


 今こそ、感謝を込めて……本来の持ち主に返すべきだと、さくらは1年間考えた末に、思ったのだ。


 別の世界のさくらが、戸惑いと不安が入り混じった顔を見せる。

 本当に、自分が貰って大丈夫なのかどうか、不安なのだろう。


 そんな別の世界のさくらに、さくらは言う。


「杖はなくしても、みんなとは一緒にいられるから。みんなを、信じてるから」


 正直に言えば、少し寂しい気持ちだった。

 けれど、星の杖の本来の持ち主は自分ではないし、杖をもっとも必要としているのは……別の世界の自分なのだ。

 今返さなければ、後悔してしまうかもしれない。


「だから貴方も、信じて」


 だからこそ、さくらは渡した。


「たとえどんなはじまりだったとしても、貴方は貴方だから」


 そして、別の世界のさくらのこれからを想い……さくらはさらに告げる。



「貴方の幸せが、貴方の大切なひとの幸せだから。どんな時も、信じて。貴方を。貴方の大好きなひとを。『絶対、大丈夫だよ』って」



 ――そして、夢は終わった。



     ※


 目が覚めると、もう夕方だった。

 時計を見ると、午後5時半を過ぎた頃だった。

「……ほぇ? 夕方?」

「お。起きたかさくら」

 ゲームをしていたケルベロスが、データセーブをしてからさくらに近寄った。

「って、どないしたん?」

 そして近寄った直後、ケルベロスはギョッとした。

「な、なんで泣いとるん? 怖い夢でも見たんか?」


「ほぇ? 私、泣いてたの?」

 改めて、目元をこする。

 すると手に涙が付き、さくらはようやく自分が泣いていた事を知った。

 確かに、悲しい夢だったかもしれない。


 けれど、それ以上に……。


「……大丈夫だよ、ケロちゃん」

 さくらは涙を拭き、笑顔を取り戻しながら、自信を込めて言った。


「例えどんな未来が待っていても、私は……ううん。私だけじゃない。別の世界の私も……絶対、大丈夫だよ」


 ケルベロスは一瞬、さくらの言っている事の意味が解りかねた。

 だが、さくらの首元に目を移すと……瞬時に全てを理解した。


(……そうか、さくら……星の杖、返したんやな)


 いつも待機状態の星の杖をかけていた首元に、もうそれは無い。

 けれど、さくらなら、杖無しでも大丈夫だと、ケルベロスは強く確信していた。



「私にも、別の世界の私にも、たくさんの大切な人達がいるんだもの。例えどんな困難が、これから先の未来で待ち構えていても、みんなと一緒なら、どんな困難も乗り越えられるよ。だから……絶対、大丈夫だよ」



 そしてさくらは、さらには別の世界のさくらも、みんなと一緒に未来へ進む。

 これから先、何が起こるのかは、例え予知能力でも全ては分からないだろう。

 今回の後継者問題についても、もしかすると、誰の予想とも違う結果になるかもしれない。

 だけど、さくらには、そして別の世界のさくらにも、目の前にいる者、いない者問わず……多くの助け合える仲間がいる。


 だから、彼女達ならば絶対……大丈夫だ。





 END





 


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by guroriasuh | 2018-04-15 20:00 | 二次小説 | Comments(0)

 週末。

 そんなこんなで、さくらの部屋にいろんな人が大集合だ!!


 ……というワケではなく。


「ほえ? 観月先生とスピネルさんと奈久留さんは来なかったんですか?」

「ええ、彼女達にはイギリスで留守を頼みました。既に彼女達にはお話した事ですから」

 クロウ・リードの生まれ変わりである故か、さらにクロウに似てきたエリオルは微笑みながら告げる。

 ちなみに、同じくエリオルの正体を知っている李家……すなわち苺鈴なども来てはいない。

 なにせ李家は中国を代表する魔術師一族である。大きな魔術関連の事件でも起こらない限り、そうそう簡単に日本へは来られない。


「で、クロウ。改まって何を話してくれるんや?」

「まさか、お前が消した……私達の記憶の中の事柄か?」

 本来の姿に戻ったケルベロスとユエが、かつての主に向けるものとは思えない、鋭い眼光を向けながらエリオルに訊ねる。

 対するエリオルは相変わらず微笑んでいた……と思えば、すぐにその表情を真剣なモノへと変える。

 それを見たケルベロスとユエは、眉をひそめた。

「いいや、違うよ」


 エリオルは、クロウ・リードの生まれ変わりとしての口調で、話し始める。

 その場に揃った、さくらと小狼と知世とケルベロスとユエが、息を呑んだ。


「ところでケルベロス、ユエ……〝壱原侑子〟という女性について、覚えているかな?」

「イチハラ、ユウコ? あの、次元の魔女などと呼ばれている女か」

「あー……あの、わいを犬呼ばわりしよった年齢不詳女か。懐かしい名前やな」

「???? どんな女の人なの、その人?」

 なにやら自分達の知らない間に話が進んでいる為、ワケが分からないと言いたげなさくら達。

「李くん、そのような名前の女性が、クロウさんの周りにいらしたの?」

「いや、俺の家に残っているクロウ関連の記録書には何も無かったぞ?」

「それは、しょうがないですよ」


 とそんな小狼と知世の疑問に、エリオルは突然答えた。


「だってその人は、この世界とはまた違う世界にお住まいの女性ですから」


「「「「「…………………………え?」」」」」


 またしてもワケの分からない発言である。さくら達は同時に疑問符を浮かべた。

 エリオルはそんなさくら達を見つめながら、いったいどう説明をしたら理解してもらえるのか、心の中で必死に考えながら、長々と説明を開始する。


「超ひも理論、という理論が存在します。現代物理学の基礎理論『相対性理論』と『量子論』……どちらも合っているハズなのに、どうしても矛盾が生じてしまうこの2つの理論を矛盾無くくっ付けるために生み出された理論です。そしてこの『超ひも理論』を説明するためには、10次元や11次元という、私達では想像もつかない次元の存在が必要でした。私達が認識しているこの世界は、縦横高さの3点による3次元空間と、時間を合わせた……いえ『時間』は省きましょう。なぜならば、空間というモノは見えているけど目立つほど大きな動きを見せないモノ。そして時間は、目に見えないのに滅多に……それこそ魔術を使わなければその動きを停める事のできない、別の存在ですからね。それはさておき、そんな10次元や11次元やらが関わってくる『超ひも理論』ですが、それを理解しようとしている者の中には、ある錯覚を覚える者が時に現れます。それら高次次元の果てに、こことは違う世界、すなわち『パラレルワールド』が存在する、という錯覚です。ここまでで、ご質問はありますか?」


 いったん説明をやめ、さくら達に問うエリオル。


「ほ……ほぉえええええ~~~~~…………???????????????」

「ま、全く理解できませんわ」

「ぜ、全然何を言っているのか解らない」

「アカン、クロウ……もうちょっと噛み砕いて説明してくれへんか?????」

 対するユエ以外のメンバー、ダウン。

 ユエの場合は雪兎を通じて大学の講義ですでに理解している事なので混乱は起きなかった。


 そしてそれ故に、ユエはこんな事を思う。


(ま、まさかクロウ……楽しんでいないか? この状況を)


 クロウがいったいどういう性格をしているのかをキチンと理解しているからこその感想だった。


「それはそうと、クロウ……もしかしてその、イチハラユウコという女性は、この世界の『もしも』な世界であるパラレルワールドの住民なのか? いやそもそも、どうしてクロウは別の世界の女性と知り合いに……ッ!! まさか、クロウ……」

 壱原侑子について追求をしようとしたユエは、ふとそこで、あるトンデモ仮説に思い至る。

 エリオルはそんなユエの反応を見て、まるで大正解した生徒を見つめる教師のように微笑むと、


「ああ、そうだよユエ」


 途中からどこか不敵な笑みを浮かべて……告げる。


「かつて私は、そのパラレルワールドへと移動できるほど、強い魔術師だった」


「「「え、ええええ!?」」」

「なんやてぇ!?」

 驚愕の真実に、驚くしかないさくら達。

「とは言っても、私の最初の次元移動は、魔力を伴わないものだったけどね」

「??? どういう、事だ?」

 驚愕の表情を維持したまま、小狼は訊ねた。


「ところでみなさん、神隠しの原因がなんなのか、想像した事はありますか?」

 だがその質問にはすぐには答えず、エリオルはそんな質問を返してきた。


「?? 『消(イレイズ)』のカードや『無(ナッシング)』のカードを使う、以外で?」

「ええ。確かにその2枚も神隠しによく似た現象を引き起こせますが、自然現象としての、神隠しについてです」

「まったく見当がつきませんわ」

「転送系の魔術、とかって言いたいのか?」

「っちゅーかクロウ、前置きはええからとっとと結論を出してくれへんか?」

 人間3人とは違い、だんだんと長々とした前置きにイラついてきた甘党守護者。

 エリオルはそれを見て『まだまだこれからなのに』と言いたげに未練がましい表情を一瞬した後、


「しょうがないですね」

 そう呟いてから、ついに全てを話し始める。


「神隠しの原因の1つであろう現象に……私は全盛期の頃、巻き込まれた事があります。原因は、いたって簡単。別の世界の自分が、この私の存在を認識したから。

 世界というのは奇妙な物でして、同一存在同士が次元を超えて相手を認識すると、なぜか両者は1つとなってしまうんです。そんな奇妙な現象に巻き込まれた私は、そこで1人の女性と出会います。その女性こそが……壱原侑子でした。

 ちなみに、その名前は偽名だそうです。真名は私にも教えてくれませんでした。それはそうとその侑子という女性は、私が融合したもう1人のクロウ・リードとは、悪友……というのでしょうかね? とにかくそんな、友達以上恋人未満な間柄だったみたいです。

 ちなみに、もう1人の私が私を認識できた原因なのですが……驚く事に、その場で侑子と共に、とある存在と出会ったからです。その存在というのが……ケルベロス、ユエ、君達も知っているあの2体のオリジナルだよ」


「!? まさか、あのモコナ達か!?」

「ええ、あのモコナ達です」

 ケルベロスの質問に、即答するエリオル。

 そう。ケルベロスとユエは、あの白と黒のモコナ達と面識があるのである。


 詳しくは絵本を参照……と書きたいが、現在本屋では売られてはいない絵本だ。


「あ、あの、エリオル君……もこなって、何なんですか?」

 なんの事やら全く分からないさくらが、エリオルに質問する。

 エリオルは、どう説明したら解りやすいかを考えながら、説明した。


「モコナというのは……一言で言えば……創造主、ですね。

 とある次元で、とある3人の少女達を異世界へと移動させたり、新たに世界を創ったりと……。

 私や侑子以上の存在……神とでも呼ぶべき存在かもしれません。

 まぁこの世界もそのモコナによって創られたかどうかは不明ですけどね。

 世界というのは、自然に生まれたりしますし。

 ちなみに、ケルベロスとユエが共に暮らしたモコナ達は、私と侑子が、創造主モコナを基に生み出した存在です……と、話が逸れたので修正しますね。

とにかくそんな感じで2人分の私の魔力が1つとなって、私はさらに強力な魔術師になりました。

そしてそれ故に、ある日私は……ある罪を犯しました」


「「「「「罪?」」」」」

 その場の一同が、眉をひそめ、エリオルの次の言葉を待つ。

 エリオルは真剣な表情から、どこか悲しそうな顔をしながら、さらに告げた。


「モコナと出会ってから、私は侑子と共に……モコナのオリジナルのように時空を捻じ曲げて、別の世界へと移動する魔術の開発に尽力しました。魔術師にとって、世界の理を知る事は至上の喜びですからね。

 まぁこの辺は私と侑子の趣味もあったのですが。

 そして私と侑子は、ついに別の次元へと渡る手段を、魔術によって確立し、様々な世界を渡りました。

 インド神話の出来事が、この世で実際に起きていた場合の世界。

 精神力で小型のロボットを動かし、戦わせ合うゲームが流行った世界。

 天の龍、そして地の龍などという名前の、2つの超能力者集団が、世界の命運を懸けて戦い合う世界。

 他にもいろいろな世界を、侑子と共に旅をしました。でもその最中……いろいろな世界を回って、いろいろあったせいか……ついに侑子は、寿命を迎えました」


「!? そんなっ」

 エリオルから告げられた悲しい急展開に、さくらは思わず声を上げた。

 小狼と知世も、ハッと息を飲んだ。


 一方で、ケルベロスとユエは、

「そうか。あのねーちゃん死んだんか」

「……騒がしい人だったが、いないはいないで……寂しく感じるな」

 と昔の事を思い出しながら、悲しそうな声で呟いた。


 だが、ふとケルベロスは、その話の中に矛盾を見つけた。


「ちょい待ち、クロウ。だったらわいらが会うたあのねーちゃんは……いつのねーちゃんなんや? わいらとねーちゃんが会う前に、クロウはねーちゃんといろんな次元を旅したんやろ? で、その旅の途中でねーちゃんが寿命を迎えたなら、わいらはねーちゃんと会えるはずがないやろ?」


「「「「!?」」」」


 ケルベロスの指摘に、一同が同時にハッとする。


 だがその謎を提示したエリオルは、そんな指摘をしたケルベロスを見ながら、


「いい所に気付いたね、ケルベロス」


 大正解をした生徒を褒める教師のような口調でそんな事を言うと、

「その謎の答えこそが、私がかつて犯した罪だ」

 ついに本題へと、入った。


「そしてその罪とは。私が侑子と死に別れたくないが故に、死に逝く侑子の〝刻〟を止めて……侑子を延命させてしまった事です」


 今まで、誰にも明かしてこなかった……話を。


「え、延命……やと?」

 ケルベロスが、顔から冷や汗をかきながら訊ねた。

「ちょっと待て、クロウ……まさか、それは……ッ!!」

 滅多な事では慌てないユエが、大きく動揺した。

「まさか、クロウ……」

 そして、エリオルの言った事を、魔術師であるがためにすぐに理解した小狼も、大きく動揺した。

 いったいどういう事か、理解できないさくらと知世。

 小狼はそんな2人に、動揺した表情のまま説明する。


「例え、魔術を用いても……死んだ人間を生き返らせる事は出来ない。それは解るな?」

「う、うん」

「ええ。エリオルくん……いいえ、クロウさんが良い例ですものね」

「ああ。その通りだ。だけど、もしも死ぬ直前の人間の時間を、止める事ができるとしたら?」

「それって……『時間(タイム)』のカードを使って、時間を止めるように?」

「ああ、理屈としては合ってる。けど、それどころの規模じゃない。

死の運命が迫った人間の運命そのものを、永遠に止める。そう言った方が正しいかもしれない。

 そしてそれは、次元の壁を超えられるほどの魔力を有していたクロウならば……不可能じゃない」

「正解です。李くん」

 またしてもエリオルは、教師のように褒めた。

「ええ。私は、侑子の〝刻〟を……その有り余る魔力を使って、止めてしまったんです。そしてそれによって……数多くの存在を犠牲にし、さらには余計な者を生み出してしまいました」


「存在を、犠牲?」

「余計な者……って?」

 何の事やら分からないさくらと小狼に、エリオルは、告げた。


「運命を止めるという事は、死の運命に空白が生まれる、という事です。そして私が侑子の運命を止めてしまったせいで、別の世界の、数多くの侑子が……その空白を埋める為の犠牲になってしまったんです」


「!? そ、そんなっ」

 再び、思わず叫んでしまうさくら。


「ええ。酷いかもしれないですが……これがこの世界の理……というよりは、死者は蘇らない、という、このもっとも基本的な理を覆さないための……世界の修正力の結果、というべきでしょうか。

とにかく、私が侑子の〝刻〟を止めたせいで、多くの犠牲を出し、さらには止め続けたせいで、世界の理は、徐々にですが歪み始めました。

 侑子を、今すぐに殺してでも〝刻〟を動かさない限り……絶対に修正される事の無い、歪みです。

 でも私は、侑子を殺す事など……出来ませんでした。友達、だったんですから。

 だけど、侑子を殺さなければ……世界は、もしかすると壊れるかもしれない。私と侑子が生きた、この世界が。

 だから私は、悩みました。世界と取るか、侑子を取るか……そしてその果てに、私は〝とある存在〟を生み出してしまいました。


〝飛王・リード〟


 ……侑子を、本当の意味で生き返らせたい。悩みに悩んだ末に、そんな歪んだ願いを持ってしまった、もう1人の私……と呼ぶべき存在です。

 そして、彼が現れた直後……世界は大きく、変わってしまいました。

 飛王の暗躍によって、犠牲になってしまった者達でなければ、けっして覆す事の出来ない〝刻〟の流れが、生まれてしまったんです。

 そこで、私はいろいろと、侑子と共に動きました。世界の歪みを、これ以上酷くしないように。そして侑子を……私が殺すのではなく、ちゃんと〝刻〟を動かす事で、安らかな死を与えるために……。

〝刻〟を動かすために、世界の裏で動いている最中。私はケルベロスとユエ、クロウカードを、そして侑子と共にモコナ達を創りました。

 ちなみにケルベロス達は元々、私が再び、世界ごとに分かれた後に〝この世界におけるさくらさん〟が、私と同じような間違いを犯さないよう、魔力を安全に制御する術を教えるために、創りました。

 まぁ、私が最初に言ったように、私の魔力を2つに分けるためでもあったんですけどね。私が再び、間違いを犯さないように」


「え、ちょっと待ってください」

 あまりにもスケールが大きく、それでいてとても悲しい話を聞いている最中、知世は話の内容に動揺しながら待ったをかけた。

「それなら、さくらちゃんの杖は……いったい誰がお創りになったのですか?」

「いい質問ですね、知世さん」


 エリオルは再び、教師のように知世を褒めると、すぐに答えた。

「さくらさんの杖は、侑子の〝刻〟を動かすための計画の最終段階にて分離した、もう1人の私が創りました」

「え、では……次元を超えて、その杖は、エリオルさんのもとに?」

「……はい、そうです」

「でも、どうしてわざわざ、もう1人のご自分に創らせたのですか?」


「……それは、ですね」

 エリオルは、どこか歯切れの悪い反応をした。


 さくら達は、疑問に思いながらそんなエリオルの答えを待った。


「実はもう1人の私が、飛王・リードによって運命を捻じ曲げられてしまう〝別の世界のさくらさん〟のために元々創ったんですよ、あの杖は」


「ほ、ほええええ!?!?」

「な、なんやてぇ!?」

「は、初耳だ……」

 さくらと守護者達は、そのトンデモ発言に思いっきり動揺した。


 今まで聞いた事も無いトンデモ事実なのだから、しょうがない。


「もう1人の私……がいた世界とは、また別の世界のさくらさんなんですけどね。そのさくらさんは、この世界のさくらさんと同じく高い魔力を持っていたんです。

 でもこの世界のさくらさんと違って、その世界のさくらさんは、フルパワーで魔力を使うと、いわゆるトランス状態に陥ってしまって、周りの事が分からなくなってしまうそうなんですよ。

 そして私が生み出した飛王・リードは、そんなさくらさんの魔力を利用しようと暗躍していた。

 だからこそ、その世界のさくらさんが、自分の力で魔力を制御できるように、もう1人の私はその杖を創ったのですが……そこまですると、さすがに飛王に感づかれて妨害を受ける、という事で……私がその杖を貰い受けて、さくらさんの杖にしたわけです。杖の補助アイテムとして『月の鈴』を創ったのも、その時です。

 そして私は、この世界でもう2度と罪を犯さないように魂を2つに分け、さらには予知でどう術を行使しようが、魔力までは半分にできない事を知っていた私は、さくらさんがクロウカードと杖と、ケルベロスとユエと巡り合うよう、死ぬ前にいろいろと準備をしていた、というワケです」


「もう1人のクロウさんや、侑子さんや……えっと、モコナさん達は……それからどうなったんですか?」

 キリのいい所で、さくらはエリオルに質問した。

「侑子は……自分の〝刻〟を動かし、世界の歪みを正すために、今も……とある世界で動いているよ。モコナ達は、そんな侑子の本拠地で、今も〝運命の瞬間〟が来るまで眠りについているんじゃないかな。

 そしてもう1人の私ですが……別の世界のさくらさんが、これから待ち受ける、飛王が仕掛ける運命に対して、しっかりと前を向いて立ち向かえるよう導いた後……侑子に、残りの魔力と寿命を託して、そのまま亡くなりました」


「そ、そんな……」

「そんな泣きそうな顔をしないでください、さくらさん」

 エリオルから語られた話は、驚きの事実もあったが、それ以上に、とてもとても悲しい話も多かった。


 次元の魔女の死。クロウの侑子に対する想い。葛藤。そして前に進むための、不退転の覚悟。


 それらはさくらの心に……いや、さくらだけではない。

 小狼と知世、ケルベロスとユエに、様々な衝撃を与えていた。


 今までさくらカードの後継者についての論争をしていたのだから、尚更だ。


 けれどエリオルは、そんなみんなを見渡しながら言った。


「それにみなさんも。もう、終わった事なんです。今は私と侑子の計画が、うまくいく事だけを祈っていてください。それが私や、もう1人の私。そして……侑子の願いですから」


「……うん、分かったよエリオルくん」

 エリオルの言葉に、さくらも覚悟を決めた。


「クロウさん達の望む未来になる事を、祈るよ。そして私も……クロウさん達と同じような間違いを犯さないように……もっともっと、頑張るよっ」


 今まで聞いていた、悲しい昔話を思い返し、思わず両目に涙を浮かべながらも。とてもとても、力強く。


エリオルはそんなさくらを見て、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに、いつも通りの柔和な表情を作り、


「ありがとう、ございます」


 心の底から、感謝した。


     ※


「ああそうだ、1つ、言い忘れていた事があります」

 さくらの家を出て、チェックインしたホテルへと向かおうとした時、エリオルはふと立ち止まり、さくらにこんな事を言った。

「魔力を2つに分ける前に見た予知夢なんですが、その〝別の世界のさくらさん〟に、いずれさくらさんは、夢を介して出会うでしょう。もしも、もう1人の自分に伝えたい事があれば、考えておくといいかもしれません」


 そして、約1年後……この予言は現実となった。





 


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by guroriasuh | 2018-04-08 20:00 | 二次小説 | Comments(0)

※作中の一部設定はオリジナルです。

※ネット上に存在する説と組み合わせて設定しました。


     ※


『……クロウ……どうして……?』


 1人の女がいた。


『どうして……私の……』


 それは、世界で1番強い魔術師と呼ばれた当時の彼――クロウ・リードにとって。


『……私の、刻を……止めたの……?』


 唯一、心を許せた異性だった。


『ち、違う……ッ!!』


 女はクロウに、蔑み。失望。悲しみ。驚愕。

 あらゆる感情がない交ぜになったかのような視線を向ける。


 対するクロウは、彼と彼女が創り出した存在達ですらも見た事も無いほど。

 ただただ、狼狽するばかり。


 彼女はこれから、死ぬはずだった人間。


 しかしその運命を、クロウは、無意識の内に――覆してしまった。



『もう1度、目を開けてほしい』



 そんな、誰もが望む願いを。

 彼が持つ、膨大な魔力によって。


 女は、感じていた。

 自分の〝刻〟が止まった事で、本来自分によって埋まるはずだった、死すべき者の座るべき席が、自分が生き延びた事によって空席となり、それを埋めるべく、代わりに別の世界の自分達が、死の運命にさらされ続けている事を。

 しかし例え別の世界の自分であっても、非情なる死の運命は満足などせず、自分以外の、全ての自分を犠牲にしてもなお、死の運命は自分の死を求めている事を。

 しかし、それでも自分は死ぬができず、その歪んだ〝刻〟の流れが、自分とは関係の無いあらゆる者達の運命さえも捻じ曲げ続けている事を。


 一方で、クロウは思っていた。


『まだ、だ……まだ間に合う』


 それは、本当は望んでいない事。


『今からでも遅くない……今からでも殺せば……ち、違う!! 私は!! 私、は……』


 望んでいないからこそ、さらに混乱する。


 失いたくない。

 しかし殺さなければ、世界が歪む。


 彼女を選ぶか。

 世界を選ぶか。


 その究極の二択の果てに、彼は……彼、は……。


     ※


 そんな夢を、彼は見た。

「……まさか、今さらあの時の夢を見るなんて……」


 むかしむかし、1人の女を生かし続けてしまったクロウ・リードの生まれ変わりである柊沢エリオルは、珍しく顔から冷や汗を流し、今まで誰にも見せた事もないくらい、哀しい表情をしながら、言う。


「もしかして……もうすぐ〝刻〟が、動くのかな?」


     


 私立友枝中学校。

 私立友枝小学校を創設した理事会が同じく創設した、別の学校。

 友枝小学校に通っていたほとんどの児童の進学先であり、同時に中学生となった木之本さくらや李小狼、大道寺知世など、かつて友枝町で起こった様々な怪異。

 すなわちクロウ・リードの魔導遺産であるクロウカード(現さくらカード)や、そのクロウ・リードが引き起こした事件に関わった数多くの、さくら達の同級生が通う中学校。


 そんな中学校にて、今日、1つの問題が浮上した。


 キッカケは、大道寺知世の一言。


彼女が昼休みの昼食の席にて、自分の大の親友にして母方の従姉妹であるさくらと、その恋人である小狼に放った、ある一言。


「そういえば、さくらカードはこれから先……どうなるのでしょうか?」

「……ほえ?」

 いきなりな質問に、ワケが解らないと言いたげな顔をするさくら。

「……いきなりなんだ? 大道寺」

 小狼もその質問の意図が解りかね、頭上に疑問符を浮かべた。


「いえ、ですから……」

 知世はそんな2人に真剣な眼差しを向けながら、話を続ける。

「そもそものカードの持ち主は、魔術師のクロウ・リードさんで、さくらちゃんはそのクロウ・リードさんの生まれ変わりである藤隆さんのご息女様。という事は、順当に行けば、次のカードの持ち主はさくらちゃんと李くんのご子息様、もしくはご息女様という事になると思いますけど」


「「ブフォ」」


 食事中だったため、同時に吹き出すさくらと小狼。

 いろいろとすっ飛ばしていきなり子供の話をされれば当然の反応である。


 知世はそんな2人を見て、思わず微笑んだ。

 そしてクラスメイト達は、一斉に3人に注目した。


 3人はただ、苦笑するしかなかった。


 そして改めて、さくらと小狼は知世に訊ねる。

「と、知世ちゃん!? なに言ってるのいきなり!?」

「……大道寺、いろいろと早くないか……?」

「ごめんなさい、2人共」

 赤面し、慌てまくるさくらと同じく赤面した小狼に対し、珍しく知世は真剣な眼差しで言う。

「でも、見方によってはとても重要な話だと思いますわ」


「知世、ちゃん?」

「何か、思う所があるんだな」

 その顔からして、その内容がとてもとても重要な事である事を感じ取り、すぐに顔を元に戻すさくらと小狼。

 知世はそんな2人を交互に見ながら、ついにその疑問を口にする。


「ええ。そもそも魔力とは、遺伝によって継承されるモノなのでしょうか?」


「……遺伝、だけでは説明できないな」

 知世の質問に、小狼は答える。

「どういう事、小狼くん?」

「例えば苺鈴は、俺の従妹ではあるけど魔力は持っていない。逆にさくらのお父上……藤隆さんは柊沢と同じくクロウの生まれ変わりではあるけれど、最初は魔力を持っていなかった。

 にも拘わらず、さくらや、さくらのお兄さんには魔力が備わっていた。

 もしも遺伝によって魔力が継承されるのなら、苺鈴には魔力があって、さくら達には魔力など備わっていないはずだ」


「確かに、そう考えると……いろいろおかしいね」

「では、魔力はいったいどういう条件の下に、発現するのでしょう?」

「……これは、母上が言っていた事だが」

 小狼は難しい顔をしながら、話し出す。

「力は力を呼び寄せる、という言葉がある」


「あ、それ小狼くんのお母さんから聞いた事ある!」

「え?」

「え、どこでだ?」

 知世と、話を止められた小狼は一瞬、さくらが何を言っているのか解らなかった。

 だが、すぐにある事を思い出す。


「香港旅行に当たった時か」

「そういえば、その時に李くんのお母様達にお会いしましたわね」

「うん。いろいろ大変だったよね、あの旅行……そういえば、あの魔道士さん……クロウさんが生まれ変わっている事、知らなかったんだよね」

「ああ、そういえば…………藤隆さんが香港に来ていたら、真っ先に狙われただろうな」

「う、確かに……」


 全ての真実を知った上で、改めてあの時の事を思い返す小狼とさくら。

 確かに、クロウ・リードの生まれ変わりの片割れである藤隆が香港に来ていたら、あの女魔道士は藤隆をさらい、無理やりクロウ・リードとしての記憶を甦らせようとしたかもしれない。

 そういう意味では、藤隆が香港に来なかったのは正解だった。無論、エリオルの場合も同様である。

 いやむしろ、そうならないようにエリオルが藤隆を香港に行かせまいと暗躍していたかもしれない。


「すみませんが、お話を元に戻してもよろしいでしょうか?」

 とそんな2人に、知世から軌道修正の声がかかった。

 さすがに、誰もが見ても脱線のし過ぎである。

 小狼は1度咳払いをすると、再び話し出した。


「力は力を呼び寄せる……それは魔術の世界に於いて、とても重要な法則だ。とは言っても、その本質はいたって単純で、人が友達を求めるのと同じようなモノだ。すなわち魔力や、それに伴う怪異も、魔力を持つ者に惹かれて現れる。そしてそれは、魔術師の魂にも当て嵌まる可能性は、ある」


「えーと、つまり、お父さんは元々魔力を持っていたから、そんな魂に、私やお兄ちゃんの魂が惹かれて、お父さんのもとに生まれてきたって、こと?」


「ああ。魔術の世界じゃ、まだクロウがおこなった〝転生〟の仕組みは解析できていないが、簡単に言えばそんな感じだ。そしてこの、魂が惹かれる現象はめったに起こらない。そもそも魔力を備えた魂が、珍しいからな。だから同じ李家の人間であっても、苺鈴には魔力が宿っていなかった」


「じゃあ、エリオルくんのお母さんとお父さんも、魔術の関係者ってこと?」

「…………それは、分からない」

 小狼は難しい顔で告げた。

「詳しくは調べていないけど……もしかするとその可能性はある。なにせアイツはクロウのお父上の住んでいたイギリスの出身だからな。もしかすると、クロウのお父上の遠縁の家の……いや待て? アイツの苗字は日本の物だから……いや、そもそも、真名だったのか?」


 陰険眼鏡魔術師であるクロウ・リードの生まれ変わりの柊沢エリオルの事である。

 最初彼は全てを偽って転入してきたのだから、もしかすると名前も偽物であるかもしれない。

 どちらにせよ、クロウ・リードは相変わらず謎多き男である。


「まぁ、柊沢の事は置いておいて、とにかく魔術業界じゃそんな感じだ」

「そうですか……なら、ますます心配ですわ」

 小狼の説明の後、ますます真剣な表情になる知世。

 さくらと小狼は顔を見合わせ、首を傾げた。


 知世はそんな自身のように、未来への不安に思い至らない2人を見かねて、


「だって、もしも本当にそうならば、さくらちゃんと李くんの間に生まれるご子息様、もしくはご息女様が……さくらカードやケロちゃんやユエさんの魔力を維持し続けられるほど魔力が高いとは、限らないのではないですか?」


ついに、そんな2人でさえも自覚せねばならない、衝撃の仮説を口にした。


 当然ながら、次の瞬間―――2人に同時に衝撃が走った。


     ※


 そして時は流れて放課後。

 あれから、午後の授業中もいろいろ考えたさくらと小狼。

 だがどれだけ時間をかけても、すぐに出せる答えではなかった。


「はう~~……考えるだけで難しいよぉ~~」

「というか、俺達にはまだ早いんじゃないか?」

「いいえ、今のうちに考えておきませんと」


 自分達の子供の魔力の修行に力を入れる。

 しかし加減を間違えれば、今の時代で言う『虐待』になりかねない。


 李家などの魔術師の家系の、強い魔力の持ち主に預ける。

 カードを悪用しそうな、信用できない魔術師が紛れているんじゃないのか。


 などの論争が繰り広げられ、頭から湯気が出そうなほど考え尽くした2人に、知世は言う。


「だってクロウさんは、自分に死が近付いているのを分かってから、いろいろと、今でいう『終活』をなさったのでしょう? でもそれだと、思いっきり余生をお過ごしにはなれないと思います。それに……突然クロウさんの死の予言を知らされたケロちゃんやユエさんも、いきなりクロウさんにその事を知らされて、とても悲しかったと思います。ですので、今の内にできる事はやっておいて、改めて、自分の家族や友達と、余生をお過ごしになられた方が、幸せではないかと私は思います」


「…………うん。そうだね」

 知世の意見に、さくらは少し悩んだ末に賛同する。

「過去夢の中のクロウさん、それにケロちゃんとユエさん、悲しそうだったもん。今の内に、いろいろやっておいた方が、いいよね……。小狼くんはどう思う?」

「……ああ。そうだな」

 そして小狼も、心に決める。

「今の内に、自分が死んだ後の事を考えておくのはいいかもしれない。俺やさくらが死んだ事で、カードがただのカードになるのは……悲しいからな」

「うん。そうだね」


 こうしてさくらと小狼が知り合う事ができたのは、そもそもクロウカードの存在が在ったからこそである。

 そしてそんな思い出のカードが、普通のカードに戻ってしまうのは、2人としても看過できない事態だ。


 だからこそ、2人は改めて誓った。


 さくらカード、そしてその守護者であるケルベロスとユエの次の主。


 もしくは次の主を選定するための手段を、今の内に考えておこうと。


 中学生には重過ぎる問題かもしれない。

 けれど、さくらカードはあらゆる怪異を発生させられるトンデモ魔導具である。

 かつてクロウ・リードがそうしたように、次の、カードやその守護者達の主を選定するための手段を、今の内に考えておいて損は無いだろう。


 とその時であった。

 さくらの携帯電話が、突然鳴り出した。


「ほぇ? 誰だろ……あっ」

 いったい誰からだろう、と思いながら二つ折り携帯電話を開ける。

 すると、その画面には……グッドタイミングな事に、


「エリオルくんからだっ!」

「柊沢から?」

「まぁ、エリオルくんからですか……あ、そうですわさくらちゃん、かかってきたついでに、エリオルくんにお訊きになってはいかがでしょう?」

「え? 何を……あ、そうだねっ」

 知世からの助言の意味を、すぐに理解したさくら。


「お訊きにって……まさか、後継者問題についてか?」

「ええ。その手段を考えたクロウさんであれば、さくらちゃんに良いアドバイスをくださると思いますわ」

 そんな会話が知世と小狼の間で交わされている間、さくらはエリオルと話をしていた。


「もしもし、エリオルくん!?」

『おはようござ……いや、そちらはもう夕方でしたね。こんばんは、さくらさん。元気そうでなによりです』


 日本とイギリスとでは、9時間という時間差がある。

 故に日本では午後5時頃でも、イギリスでは午前8時頃なのだ。


『ケルベロス達も、元気にしていますか?』

「うん、ケロちゃんは今日も……多分ゲームに夢中になってると思うし、ユエさんもお兄ちゃんと一緒に大学に通ってるよ」

『それはなによりです。ところで、さくらさん……』

「?? なぁに、エリオルくん?」


 いきなり言葉が詰まったエリオルに対し、小首を傾げるさくら。

 訊ねられたエリオルは、まるで言葉を選ぶように、一言一言丁寧に話し始めた。


『実は……今週末……そちらに行こうかと思います』

「えっ!? そうなの!? じゃあ待ってるね!!」

『ええ、それで……「私」の正体を知っている者……桃矢くんには、別に話さなくても問題ないですね』

 一人称を『僕』ではなく『私』に変えて……。

 すなわち、さくら達の同級生としてではなく、クロウ・リードの生まれ変わりとして、話しかけてきた。


 それにより、どこか不穏な空気を感じ取ったさくらは……上がったテンションを下げ、改めてエリオルに問うた。


「どうしたの、エリオルくん?」

『……とにかく「私」の正体を知る者全員を、集めてくださいませんか?』

「それはいいけど……なんで?」

『そろそろ、話さなければいけないと思うんです』


 そして、クロウ・リードは……告げた。


『なぜ「私」が、魂を2つに分けたのか……その本当の理由を』





 


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by guroriasuh | 2018-04-01 20:00 | 二次小説 | Comments(0)

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